普段は滅多に手に取らないジャンルの本を読んだりすることがある。『しあわせな放課後の時間』はそんな風に選んだ一冊。長男と次男の子育てをする上で何か勉強になればとの期待もありました。この本は自分の期待に答えてくれたか、よりも「自分のダメな部分」のほうが浮き彫りになってしまいました。
この本は、著者らによる7泊8日のデンマーク視察(2011年)とフィンランドの視察(2008年)。この二つ視察報告が本書の柱となっています。
日本と根本的に違う両国
仙台の北欧家具を扱う店を訪れた時のこと。並んでいる家具が新品でないことは一目でわかりました。 行ったことも見たこともない「北欧の国」にただ漠然とに感じるスローライフ的雰囲気と長く使われた感が刻まれた家具には、相応の貴重さを感じました。 IKEAのデザインにも興味はある。でもIKEAの現代的大量生産品にはない一品モノの価値。北欧の「家具を大切に長く使う精神」を日本で引き継いでいくのは素晴らしいことだと思ったものです。
さて、デンマーク、フィンランドについてです。上記の北欧家具とか、キシリトールで虫歯が少なそうとか、フィンランドはPISAで頭いいんだっけとか、両国に対してはそんなイメージしかもっていませんでした。メディアを通じて紹介される表層だけしかしらないなんて恥ずかしいことです。
で、読んでわかったのは「高福祉国家」であること。厳密には違うのかもしれませんけど、日本よりもはるかに高い課税によって、高福祉国家が実現されている点はデンマークとフィンランドに共通しているようです。 デンマークでは、所得税40~50%、消費税25%だといいます。フィンランドでは、商品やサービスによって違いはあるものの付加価値税としてほとんどの商品に22%課税されるんだとか。
税の議論には詳しくありません。そんな私にも両国が「高福祉国家」という理念のもとに統治されていることは感じ取れます。デンマークもフィンランドもいいことばかりじゃないんでしょうけど、日本と根本的に違うなと感じた部分です。
教育は世代の価値観を育てる
両国はともに宿題、試験が少ないんだそうです。授業は対話形式で行われ「あなたの考え」が問われるとのこと。 「あなたの考え」よりも「試験の成績」が問われる日本とは正反対。 わが家は「わからない言葉は国語辞典で調べよう」は長男に定着するだろうかと考えながら、こどもたち本人のやる気の範囲でドリルに挑戦させています。その発想の根源をたどっていけば、やっぱり成績至上主義にたどり着く。
ところで、入社式シーズンを迎えると「今年の新入社員の素性、傾向」がニュースになったりします。きっと私は、かつて新人類などと分類された世代です。現在では、ゆとり世代とかさとり世代とか。いろんな言い方がされていますが、いずれも当時の大人たちによって作られた時代、教育方針の影響を受けていることを改めて感じました。
というのも、本書で紹介されるデンマーク、フィンランドはともに「ゆとり教育」が行われているとのこと。日本もゆとり教育が行われた時代がありましたね。両国と日本の「ゆとり教育」を比べると、その結果はどうも違うようです。両国の場合は、高福祉国家という崇高な理念の基に教育方針が定められ、実践されていることがわかります。教育のみならず、税や働き方さらに男女の家事分担まで、社会全体が高福祉国家を実現するための仕組みとして徹底されているように感じます。 一方の日本はどうでしょうか。私たちは何を目指して進もうとしているんでしょうか。
今、私たちは幸せなのか
先日、次男の生活発表会(幼稚園)がありました。スポットライトに照らされる次男の姿に成長を噛み締めておりました。 会場には、自分の子どもの演技になると黙ってビデオ撮影をするけど、それ以外は私語が多く他から白い目で見られていたお父さんがいたり。無神経、非常識と言わざるを得ない人たちもやっぱりいます。 こんな「私は常識的な振る舞いができます、あなたとは違うんです」的な物言いをしておりますが、デンマーク人やフィンランド人の視点からすれば、五十歩百歩かもしれません。
本質的には、心の底には、自分の子どもが他の子どもよりも優位に立って欲しいと願っています。自分の子どものシャッターチャンスを逃したくないがあまり、レンズをぶつけ合いながらカメラを構えたりしています。いやしいです。自分。
本書の冒頭、視察の折、「幸せとはなんですか」といった問答が紹介されています。目先の優劣に執着していては見えない大切なものに気づいていないかもしれません。ただ、そんな幻想よりも現実社会で落ちこぼれないように子育てしなければ、という考えは捨てられません。
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